「俺の母親と遠縁だって、本当ですか?」

ふっと口をついて出た。

馬鹿にして見下していた言葉。

「違うわ」

湯本さんは言下に言い切った。

そしてしゃがみこんだ姿勢のままで、またくすくすと笑う。

「淳くんのお父さんがあんまり素敵なんで、つい、いっちゃったの。ごめんね」

そういうと、湯本さんはバッグをあけて煙草をとりだした。

指で弾いて口にくわえ、ライターで火をつける。

たちのぼる紫煙が、俺に、イワクラの煙を思い出させる。

「淳くんのお母さんのお友達、小竹さんっていう方ご存知? 娘さんがオプニカで片腕をなくした」

俺はうなづく。

湯本さんはそれを確認してから、ゆっくり深く煙草を吸い込む。

「その娘さんのカウンセリングやったの、わたしなの。まだライターになる前。大学院で臨床心理やってた頃」

そこまでで、湯本さんはふと黙り込んだ。

紫煙がちいさく波打ちながらあがっていくのを、俺はじっとみつめる。

橋の下を、川が流れる音がきこえてくる。

でかい、外の川。

雨がふると、怒涛のような流れになったりもする。

むかしはよく氾濫して、一帯を水浸しにもしたらしい。

じいちゃんが足に石をくくりつけて入ったのは、この外の川だ。