予想通り、湯本さんはラーメンを食べた後、俺にインタビューを試みた。

でもそれは、場末の喫茶店ではなくて、歩いて神居に戻る道すがらにだった。

はじめは、北方の植物のすばらしさや、‘ここらへん’の住民たちの自然に対する意識の強さ(湯元さんが強調したのはとにもかくにも車両乗り入れの制限だった)を切々と語っていたのだけれど、俺が、はあ、はあ、としか返事をしないので、そのうち黙り込んでしまった。

「明日、帰ります」

外の橋を渡りはじめたあたりで、突然、湯本さんはそういった。

まるで、明日、結婚します、といったのと同程度の緊迫感があった。

そういうのを聞いたことはないけれど、勘で。

でも俺の返事はかわらない。

はあ、と返すと、湯本さんはふいに泣き出しそうな顔になった。

俺は、走って逃げたくてたまらなくなる。

それを察したのか、あ、ぜんぜん、平気だから、と湯本さんはいい、ほんとに大丈夫、とつづけるなり、道路にしゃがみこんだ。

ぜんぜん大丈夫じゃないじゃん。

俺は焦りまくって、タクシー呼びますか? とか、救急車にしますか? なんて間抜けな言葉を連発していると、湯本さんがいった。

「淳くん、童貞でしょう?」

「はあ?」

引きまくっている俺の顔を、くすくす笑いながら見上げる、ほとんど表情のない埴輪顔。

でも、すごく上機嫌だってわかってしまう。

母さんと同じだからだ。