携帯電話とBS放送の電波は弱いけれど、一応全部のチャンネルは入るし、充分に都会だ。

 二つの橋を渡れば駅まで自転車で、二十分ほどだし。

 駅からはアジアの国に直行便が飛ぶ空港へのバスだって出ているし。

 なんといってもこのごろは、市の反対側にある動物園が全国的に有名になって、外国の観光客だってけっこうきてる。

 この市は、人口三十数万を数える、現代地方都市だ。

 だから舞の親父さんが一年の任期で東京から出向になるのだって、まあ、ありえることなんだ。

「現代地方都市。現代地方都市」

 小刀を二つの親指でおさえて、俺は、先週、クラスメートの安部からもらった柳の木片をすこしづつ削りあげていく。

 木片は長さは70センチくらい、直径5センチほどの節のすくないやつだ。

 すでにきちんと乾かしてある。

 安部がいつもめちゃくちゃ気のきくいいやつなんだ。

「現代都市。現代都市」

 祈りの言葉みたいにつぶやいて、俺はできるだけ薄く、長く、木片を削る。

 上、三分の二くらいのところに、カンナかけで出る薄い木屑の房ができるように、何度もくりかえす。

 丁寧に。念を籠めて。

 舞は、このイナウをみたらなんというだろう。

 なに、このぽんぽん、っていうかな?

 ハンディモップの新しいやつ? とか、呪いの人形? とか。

 最後のが一番近いかな。

「現代都市。現代都市」

 俺は腹の中で、くすくす笑いながらも、口ではそうつぶやきつづけて削る。

 イナウを削ってるときに笑うなんてもってのほかだから。

 三つ、五つ、と先端がくるっとカールした髭が増えていく。

 居間の中は、俺の持つ小刀の柳を削る音しかしない。