「お役にたてて、ほんとうによかったわ」

湯本さんは、ラーメンからあがる湯気に満面の笑みを向けながら、割り箸を割った。

「お世話になりました。助かりました」

俺はさっきから10回はくりかえしているセリフを、もう一回、と気合を入れていう。

「もう、そんな、わたしたちの仲じゃないの」

嫌いなシナチクを端によせながら、俺は、はあ、と曖昧に笑う。

俺たちは、よしの、にいる。

隣町までは業者の人たちが乗せてきてくれた。

それもこれも、お支払いを終わらせた湯本さんが、ラーメンが食べたい、といいだし、業者の金髪のお兄ちゃんが、ラーメンならよしのっすよ、といい、じゃあ、そこに、淳くん、つきあってくれるわよね、で決まりになったわけだ。

ほかの連中は、これ幸いと、お疲れ様でした、を連発して、次々と目の前から消えていったし。

ただ、舞だけが、小森と桜井に手を引かれながら、微妙なふくれっつらで、ばいばい、といってくれたけれど。

これも、たぶん、会長職だ。

「おいしい! ここのラーメン、ほんとうにおいしいわねえ」

湯本さんは、はしゃぎまくっている。

きっとラーメンの後には、向かいの喫茶店でお茶になって、そのときに根堀葉堀で聞かれるに違いない。

俺はこのまえ、山中のおごりでこの店にきたときのことを思い出しながら、耐えるしかない、と健気にも決心した。

とりあえず、ここもきっとおごりだろうし。