写真、薬缶、コップ、箸、レコード、スーツ、本、ブタの貯金箱、ミッキーのクッキー缶。

できるだけ、祭壇に近いところからぎゅうぎゅうにつめて並べていく。

いつのまにか、田口が作業に加わっている。

湯本さんを連れてきたんだ。

列を作っている参加者の顔をざっと見回したけれど、それらしい顔は見つけられない。

気を使って、隅のほうでみているんだろう。

かわりに、薬師の顔をみつけた。

俺に気がついて、軽く右手をあげる。

その手に握ったままの四角い小箱が、たぶん、婚約者からのプレゼントなんだろう。

俺はけっきょく、薬師の家にはいかなかった。

もの、を見て、俺が判断するなんて大仰なことはできない。

薬師には、舞を通じて、なんでも持ってきてくれてOK、と伝えておいただけだ。

いま、こうして列を作る参加者の中で、薬師をみつけて、非難するような素振りの人は誰もいない。

じっさい、簡単なことなんだと思う。

思い込みとか偏見とか、そういうものがつまり、正婆のいう、邪、ならば。


そんなことを考えている間にも、もの、はどんどん増える。

時計、クッション、布団、椅子、自転車まで並んだ。

祭壇前の空間が、もの、でいっぱいっぱいになったあたりで、列の後方で整理をしていた舞が、終了のサインをだした。

 シッコロ・カムイ

 イレス・カムイ

 ワッカウン・カムイ

俺は祭壇のほうを向き、声をはりあげて唱える。

つぶやき程度まで落ちいていた詞が、それを合図にまた、参加者の間から大きなうねりになってたちあがる。

佐藤が、みんなのイナウを一つづつ振り上げながら、もの、の間をゆっくりと歩きはじめる。

参加者はできるだけ後ろ、来た道のほうに下がり、佐藤が、送るもの、に感謝の言葉をまんべんなくかけるのを、見守っている。

 大切なわたしのものよ

 いままでわたしにしあわせをありがとう

 こうしておまえをおくるのはかなしいけれど