「いやいや、恋の前には時間なんて止まっちゃうんだな、永遠にね」

山中が変な節をつけて歌う。

「まあ、仲がいいのはよろしいんですが、なにぶん神聖なわけで」

佐藤は手にしていたイナウを2、3度振ると、文様の描かれた藍色の祭壇におごそかに供えた。

みると、みんな、もうすでに自分たちの、送るもの、をしっかりと祭壇近くにおいている。

日記らしきもの、野球のグローブ、スケッチブックなんかはわかりやすかったけれど、舞の熊のぬいぐるみ近辺はすごい。

服、そして、鞄がどっさりと積まれている。

「いらないから」

じっと見ていると、舞が恥ずかしそうにいった。

「さっきから何回もみんなにいってるんだけど、ここじゃ、こういう、なんとかブランドの云々って、阿呆にみえるっていうか、自分がブスにみえるっていうか、だから」

もったいないよねえ。小森と桜井が小さく嘆いている。

「ほら、もう、あがってきてるからさ、整理してよ」

うだうだやっていると、そう山中にうながされた。

本当だ。見ると、自分がいまあがって来た道を、4、5人の参加者が、イワクラで送りたいものをもって、しずしずとこちらに近づいてきている。

俺は自転車を隅っこにとめて、鞄からイナウの束をとりだす。

「手伝う」

舞がすっとよってきて、持ちきれないイナウを祭壇に運んでくれる。

 シッコロ・カムイ

 イレス・カムイ

 ワッカウン・カムイ

手に枕のようなものを持った参加者の一人が、ふいに唱えはじめた。

 大地の神よ

 火の神よ

 水の神よ

まわりの人たちが一呼吸おいて、復唱する。

俺たちも作業をしながら、大きな声で唱える。

俺たちの作業。

小森、山中、桜井、佐藤、俺の順番で、参加者から、送る、もの、を受けとり、祭壇前に供える作業。