「あのおばさんに、イメクラ、見せろってことじゃないか・」

俺は田口のロシア人みたいな顔をしばらく見つめる。

こいつ、目がまじで薄茶だ。

「あのおばさんも、送りたいものがあるんだったら、いいんじゃないですか?」

「そうきたか」

田口はあっという間に狭い山道をUターンすると、湯本さんを迎えにすごい速さで下っていった。

「さきいってるわ」

俺の声は砂利を蹴る車輪の音でかきけされたくらいだ。



雨のオプニカ。晴れのイワクラ。

‘ここらへん’に伝わる詞は今日も当たりだ。

俺は、もう午後も遅いというのに、かんかんに照り返っている太陽をみあげて、おもわず手を合わせてしまう。

山の端は、晴れていれも雲や霧で太陽がそのまま照ってでることはないのに、イワクラの今日はこの様なんだ。

ガキの決めたイワクラなんて馬鹿にしてないところがうれしかった。

‘ここらへん’を構成する3つの世界。

神の国(カムイ・モシリ)

人の国(アイヌ・モシリ)

そして、そのほかの世界、が認めてくれているようでたまらなかった。

今日のイワクラは、そのほかの世界に送る、儀式だ。