お気に入りの音楽を聞きながら、ケータイの画面に見入っていた。
「あっ……」
その時、ポロンと右耳のイヤホンが外された。
こんなことするのは1人しかいない。
「何やってんだよ」
「いっくん、おかえりー」
「ただいま。
…… つーか、まおは何やってんの?」
「いっくんのお迎え。 ママが“雪降っているから迎えに行ってきてあげな”って言うから傘を持って迎えに来た」
本当だったらご飯食べている時間だったんだけどな。
「そうなんだ」
「寒いし、お腹減ったから帰ろ?」
「あぁ」
ぞろぞろ会社や学校帰りの人が一斉に出口へ向かうからしばらく狭い構内で2人で待っていた。
「迎えに来るなら連絡しろよ」
人の波が収まるのを待ちながら、不意にいっくんが言った。
「あたしいっくんの連絡先知らないよ?」