気分が浮上しない理由なんて簡単だ。
俺の脳裏には、未だ伊坂の顔がちらつく。
あんな風に、傷付けて終わらせてしまった自分に苛立ちを覚える。
でも、もう忘れるしかないんだ。
そうは思うものの、それは簡単な事じゃない。
伊坂が俺に会いにこなくなってから、数回伊坂を見かけていた。
以前は伊坂という人間がいた事さえ知らずにいたのに、今は伊坂がそこにいれば、つい目がいってしまうようになっている。
その姿は、どこか生気が見られないというか、目が何も映していないように見えた。
それは、やはり俺のせいなのだろうかと、その度に自己嫌悪に陥った。
それまでの伊坂の目は生き生きとしていて、俺は何度もあの目に吸い込まれそうになった。