「おい歳哉!ぼーっと突っ立ってんなよ!」


 いきなり道場に響く大声の主は紛れもなく恵本助之丞(えもと すけのじょう)。

 背はさほど高くないのに道場随一の体力を持つ、超人並の19歳。



 その後ろから追って声が聞こえた。


「助之丞!あんたも突っ立ってんじゃないわよ!」


 案の定、紅一点の山岡八重(やまおか やえ)だった。

 この人は女だからといってあなどってはならない要注意人物だ。

 普通は腕力に差が出るであろう思春期を越えてもなお男達と渡り合う恐ろしい女なのだから。


(ん…なんか今にらまれた気がするのだが………気のせいだよね…アハハ)



「おぉ八重か。どうだ、朝稽古に立ちあってくれよ。相手がいねぇんだ。」


 助之丞は歳哉の存在を忘れたかのように…いや、意図的に忘れて八重に向き直る。


「ちょっと助之丞さん!」

なんて歳哉の叫びは届かずに…


「望むところだ!」

八重は受けて立つのであった。