とりあえず歳哉は道場まで走った。

 そして、中を見渡す。


―――やはり八重はいない…。


 とりあえず怪しまれないよう、普段通りにみんなの輪に入った。


「おぉ歳哉おそかったなぁ!」

「ごめんごめん!どうしても竹林でなにをしてるか見たくてさ!」

 同い年の少年に話しかけられたが、無難な返事をしておいた。


「ところで八重みてねぇ?」

 その少年に聞いてみることにした。

 すると、

「え?八重さん、泰美さんと一緒に外にいたぜ?」


―――泰美?羽村泰美(はねむら やすみ)か…

 八重の好敵手のような存在だ。八重が強すぎて女性では泰美くらいしか相手にならない。しかし、相手になるといっても多少ましな試合ができるというだけで、八重には勝てないのだが。


(なんで泰美さんが?いつもあまり話している姿を見たことはないのだが…)


 歳哉はこれら一連の異常事態に身震いしてきた。一刻も早く対策を打たなければ…。


「ところで総祐は?」

 ついでなので、少年に総祐の居場所も聞いてみることにしたのだった。


「総祐なら、ほら、あそこ」

 少年が指差したその先には………


(戯れすぎだあのバカ!!)


 小さい子に、やんやと群がられている総祐の姿があった。



「そぉーすけぇぇー!」


「あぁ歳哉♪」


「あぁ歳哉♪………じゃねぇだろ!!」


 その時、道場のみんなは歳哉の後ろに鬼のようなオーラをみたという。