「えっ…そ、そのぉ………」


 歳哉は事の真相を言う訳にもいかず、もじもじした。



「はぁ~だぁれがエロおやじだよ…先生にむかってよくもまぁ堂々と…」


 勇大はすでにあきれ顔だ。

 それを見て、何だか急に恥ずかしくなって来た歳哉は、顔がほてりだし、一直線に道場の入口まで走って外に出た。



「おい!」


 鬼谷先生が呼び止める。

 しかし、歳哉は振り向くはずもなく…それをよいことに兄弟子達は大声で茶化し始めた。


「なぁ、あいつ、勇大を見て顔がほてってやがったぜ!」


「まさかそっちの気があるんじゃなかろうな!…って俺はごめんだぞ!」


「まぁまぁそう言わずにさっ♪

んーでも、そっちの気ってことは…八重もその対象として数えて良いんだよな?」



 助之丞のからかいを勇大が増幅させて楽しそうに話していたそのとき………



―――ガスッ



 八重の木刀は閃光を放ち、ドサドサと人が倒れる音が後に残った…。



「だぁれが男よ!ねぇ、総祐?」


 一人生き残っている総祐は、いきなり話を振られてビクッとしたが、そこは12歳という少年の愛らしさを発揮するのである。


「八重お姉ちゃんはすっごぉく美人なのにねぇ!僕は大好きだよ!」



 総祐よ…。なんて変わり身の速さなんだ。恐るべし12歳。

 こんな分かりやすいお世辞を言って許されるのは少年だからだろう。



 八重は、お世辞と分かってはいるものの、


「まぁっ総祐ったらぁ!」


と、頬を紅く染めた。


 珍しく愛らしい声を発した八重は、どうやら、まんざらでもなかった様で、女の顔になっていたのだった…。