「……私…初めてだったの…。」


微かに聞こえる果懍の声。


俺は立ち止まり前を向きながら答える。


「……何が?」


「……キス…。」


キスが初めて?


俺がしたあの時のキスが初めてだったって言うのか?


マジかよ…。俺は思わず振り返ってしまう。


「俺が初めてだったのか?…じゃあ
岳とはまだ…」

果懍が頷く…。


「……ごめん…。本当にごめん。」


俺…最低だ。


俺はただ果懍に謝る事しか出来なかった。


果懍の目から涙が溢れ出す…。


思わず涙を拭ってやりたくなる。


ダメだ…。


今.果懍に少しでも触れてしまうと今度こそ果懍の事を諦められなくなる…。


俺は見ていない振りをして先に
見える駅に向かって歩き出した。


「やっぱり…やっぱり冗談だった
んでしょ!!だったら思わせ振りな
事.言わないでよ!!」


果懍が泣きながら叫んでいる。


「あの時…冗談だ…って言って
くれた方が良かった!!…そう言っ
てくれたら…こんなに辛くなかっ
のに!!」