下駄だから上手く走れない。
でも、会いたくて。
大好きな人に会いたくて。
私は懸命に走った。
『めぐ、今どこら辺…
そう電話越しから聞こえたのと同時。
さっきの場所から少し離れた土手で私たちは出会った。
はぁはぁと息が上がる。
「めぐ、走ってきたの…?」
「…たくて…」
「えっ?」
「早く、三橋くんに、会いたくて…。」
―そう言った途端、三橋くんが私を抱き締めた。
夜風が2人の髪を撫でては通りすぎる。
少し甘い香水の匂い。
ドキドキと聞こえる、三橋くんの心臓の音。
私を抱く、力強い腕。
そのすべてに、もう偽りはない。
「心配かけて、不安にさせて…ほんとにごめんね。」
「うんっ…」
「俺、美香ちゃんからめぐの昔の恋人の話、聞いてたんだ。
俺も正直最低な時期あったから、心からめぐのこと幸せに出来るか自信なかった。
また、傷つけるんじゃないかって…ほんと、ダメな男だよ。」
三橋くんの声が少し擦れる。
私は必死に声の元へと耳を傾けた。
「でも…初めてなんだ。
こんなに愛しくて、離したくない。そんな存在。
遠回りしすぎたかもしれないけど……
ずっと好きだった。
初めて会ったときから、気になって仕方なかった。
声をかけずにいられなかった。」
夢みたいな言葉がいくつも聞こえて、
嬉しくて、嬉しくて、涙が溢れだした。