茶色いレンガの外装の、古めかしい6階建てマンションで、管理人がいないため自由に出入りできる。
もしかしたら、と思って試してみると、やっぱり屋上の扉にもカギがかかっておらず、入り込むことができた。
講習の2日目でここを見つけて以来、塾からの帰りは必ずここに寄るようになった。
屋上でこうして夜空を見つめている瞬間が、あたしの人生で唯一、心休まる一時だったから。
カタンッ…ガチャガチャッ
不意に、下の道路から物音がした。
道路と言っても、ここはあまり人気のない住宅街だから、ふだんは猫くらいしか通らない。
不思議に思って、屋上から身を乗り出して下をのぞき込む。
すると、そこには自転車を押している夏木の姿があった。
さっき教室で見た服のままのところを見ると、どうやら塾帰りらしい。
自転車通学ってことは、家が遠いのかな?
まじまじと夏木を見つめていると、視線を感じたのか、突然夏木が顔をあげた。
夏木の長い前髪がふわりと揺れたかと思うと、無愛想なタレ目が、あたしを見上げていた。
え……