「あ、夏木」

声に出してしまってから、しまった、と思った。

春期講習の最終日、相変わらずあたしは屋上に来ていた。

近くの街路樹に咲く桜が、きれいに咲き始めて、ぼんやりとそれを眺めていると、下の道路で自転車を押した細い背中が立ち止まり、同じように桜を見上げていた。

それが夏木だと気付くと、思わず声に出てしまったのだ。

夏木の視線が、桜からあたしへと向けられた。

「……」
「………」

1週間前にこの場所で、偶然会ったものの、その後は教室で見かけても口を聞くこともなかった。

初めての時と同じような、気まずい沈黙。

何か話しかけた方がいいのか、わからずに迷っていると、今度はなんと夏木から口を開いた。

「…ここ、お前んち?」
「え!?うっ、うん!いや、あ、ううん!違う!」
「…ふっ、何キョドってんだよ」

また、あの無邪気な笑顔だ。

この前と同じように、また胸がドキドキ高鳴り始める。

えーい、成長ないなあたしのバカ!

「お前そこで何してんの?」
「…桜、見てた」
「は?」
「さーくーらー!桜見てたの!」
「ふーん?」

夏木はバカにしたように鼻で笑った。