……わたしが知りたいのは、どんな花の名前でも無いのに。
「えっと……これ」
心境とは裏腹に、足下のかごに並べられた花を指さしていた。
小ぶりな白い花が集まったその花は、
「アガパンサスですよ」
さっきから変わらない顔で微笑んだ彼にこう呼ばれた。
「じゃあ……それ、買いますっ」
「一株で良いですか?」
頷いたわたしを見て彼は優しい手つきで花を持ち上げ、奥へ向かっていく。
その後ろにくっついて歩きながら、頭の中で呪文のように繰り返す。
アガパンサス……。
今、彼とわたしを繋ぐもの。
「陽当たりの良い窓辺とかに置いてあげてください」
「あっ、はいっ!」
アガパンサスを袋に入れる彼の顔ばかり見ていた。
伏し目にした睫の影に……色気が滲んだ。
とっさに返した返事がやたら大きな声になって、視線が手元のアガパンサスからわたしに移る。
「……可愛がってあげてね」
制服姿のわたしに彼が小さく呟いた。