「美歌、悪いけど俺の机からプリント持ってきてくれよ」
次の日、日直になった私は休み時間に担任に言われて職員室へ。

職員室の入口で、大荷物を抱えて出てくる誰かとぶつかった。
「悪いっ、前見えなかった」
「あ…」
顔を見て私は思わず声を漏らした。

深見先生だ。
…何となく気まずい。

「あ、美歌じゃん」
「えっ?」

…授業担当してないのに何で名前知ってるんだろう…。
しかもイキナリ馴れ馴れしい感じ…。

先生は大荷物をドサリと足元に降ろした。
「ちょうど良かった、美歌に用があったんだよ俺」
「え…えっ?」
先生は私の腕をぐいっと引っ張って職員室の中へ。
「な、何なんですか!?」
突然の強引な行動に胸が高鳴る。
昨日初めて喋ったのに、私に何の用があるわけ?
ほとんど初対面なのにイキナリ腕掴まれてるし。

連れてこられたのは本やら書類やらがごちゃっと積み上がった机の前。
この汚いのが深見先生の机…?
先生は自分のカバンの中から一枚のCDを取り出して、私の掌の上に置いた。
「これ、美歌に聴いて欲しくてさ」
私は戸惑いながらそのCDを見た。
外国語のジャケット…何だか見覚えのあるスペルがある。
あ…もしかして…。
「『夕べの歌』…?」
「ああ、ハンガリーの合唱曲集なんだ。最初にその曲が入ってる」
「これ、先生のですか…?」
「俺の。意外?俺合唱好きなんだよ」

やっぱり…!そうなんだ。
でも、理科の先生からこのCDが出てくるなんて想像出来ない…。
「何で私に…?」
「好きだろ?その曲。だから他の曲も聴いて欲しいと思って」