「あぁ、悪い。邪魔したな」
「あ…あの…っ」

動揺して言葉が見つからずに口をぱくぱくさせている私を見て、先生はくすりと笑って行ってしまった。

…き…聞かれた…!
しかも笑われた…!?
顔がみるみる熱くなっていくのがわかる。

い、今のって、理科の深見先生…だっけ?
っていうか、何で今ここ通り掛かるかなぁ…。
っていうか、聞こえたとしてもフツウ声掛けなくない?

あれ…?
っていうか…曲の名前、知ってた…?

帰り道、私はドキドキしながらバスに揺られていた。
深見先生って何者…?
私のクラスの授業は受け持ってないから、先生とは今まで全く接点が無かった。
生物の担当で、まだ若い先生。目立ってかっこいい訳でもないけど、悪くもない。
…っていう位しかわかんない。
音楽の先生でもないのに、何で曲名知ってるんだろう?
まさか、ハンガリーの言葉がわかるっていうマニアックな先生!?
それとも…合唱が好き…?
あんな曲、合唱やってる人しか知らないよなぁ。

合唱…好き、なのかな…。
ずっと凪いで澱んでいた私の感情が、久し振りに小さく波を打った。