「あの…タロちゃんって…」
「ん?あ、あいつ『太郎』っていうの。一人だけの『生物部』」

えっ…一人だけ?

「って言っても、もう引退する時期なんだけどさ。毎日そこにある花とか魚とかの世話しに来てくれるんだよね」

生物部ってあったんだ…知らなかった。
熱心な先輩なんだなぁ…。
「…好きなんだよ」

え…っ!?

「あいつ、1年の頃からこいつらの世話してくれててさ。こういうの好きなんだなと思って、俺が『生物部』やろうぜって言ったら話にのってくれてさ。結局他に部員は集まらなかったけどね」

「は、はぁ…」
何だ…「好き」ってタロさんの話か…。

…って、何で動揺してんのよ…?

「美歌もおんなじだろ?」
「え?おんなじ…?」
先生は私を笑顔で見てる。
「俺はさ、美歌もタロと同じだと思ったから声かけたんだ。タロは生き物が好きで、美歌は歌が好き。美歌も好きなら続けられると思うんだ、『合唱部』」

あ、そうだ…私はその話をしにきたんだった。
でも私が言わなくても、先生は私が何を聞きに来たのか分かってたみたいだ。

「で、でも『生物』と『合唱』じゃ全然違う…」
「そうかな。じゃ聞くけど、美歌は絶対に『合唱』じゃないとダメなの?」

…どういう意味?

「独りで歌ったらダメなの?『歌うこと』自体が好きなんだったら、独りでも活動は続けられると思うんだけど…まあ、そうなると『合唱』ではないにしろ、続けてさえいれば、また部員が増えるかもしれないし、また合唱が出来るんじゃないかなぁ」