「…で、その時さ」

「…うん」

楽しそうに話す仁絵に対し、伊澄は上の空だ。

「伊澄、聞いてる??」

「ごめん、あんまり…」

仁絵の話より窓際の二人が気になってしょうがない。

「もーそんなに気になる?」

「だって、生徒が同じ店にいると思うと、プライベートって感じしなくなってきて」

学校では生徒の指導をしている立場上、プライベートではなるべく生徒に会わないように人一倍気を使っていた。

生徒が行きそうなテーマパークとか行かずに、デートでもなるべく遠くの場所を選んでいた。

「意識しすぎだって、向こうなんかこっち全然見てないしさ。完全二人の世界じゃん」

「そうだけど…」

伊澄は何度かチラチラ視線を向けているが、直人たちはこちらを見向きもしない。

「二人とも生徒?」

「いや、男の子のほうだけ。女の子は知らない子」

(うちの高校、女子少ないし…あんな可愛い子いたら気づくよな…)

仁絵はタバコに火を点けて煙を吐いた。

「高校生の割りに、二人とも落ち着いてるよね」

「うん…水澤くんは落ち着いてるけど…彼女のほうは…高校生なのかな?てゆうか水澤くん、彼女いないって言ってたのに」

「さー。わかんないけど、高校生なんてすぐできてすぐ別れるじゃん」