少し走ると、前方に同じ方向に歩いているヒノケンの姿が見えた。

(あれ…たぶん、火野くんだよな。)

この時間だと走らないと確実遅刻なのに、ヒノケンはパンを食べながら普通に歩いている。

(いいな…生徒は、遅刻しても余裕で…)

生徒だったら遅刻したところで、教師に少し注意されて終わる。常習犯となると別だが、１回くらいならそんなに厳しく咎める教師もいない。

しかし、自分が教員となると、そんな失態は許されない。


そんな事をふつふつ思いながら走っていると、交差点に差し掛かり、隣の道から自転車に乗った女子生徒がやってきた。
その女子は伊澄の前を通りすぎ、ヒノケンに声をかけた。

｢ヒノケン、おはよー｣

｢おっ、ちぃ！のーせてっ♪｣

そう言って勝手に自転車のカゴにカバンを突っ込んで、後ろにまたがった。

｢おもい～｣

ちぃと呼ばれた女の子は文句を言いながらもよたよたと自転車を進めた。