「……………」

キノの言葉に伊澄は下を向いて黙ってしまった。

教師と生徒が二人きりで会ったらやはり問題なのだと改めて思い知らされた気分だった。

そもそも、教師と生徒が恋仲になるなんて常識的に許されない。

(普通に考えればわかるのに……何を浮かれていたんだろう)

伊澄は自己嫌悪に陥った。

(あちゃ……)

ヒノケンは伊澄の気持ちを察して、少し胸を痛めた。

「やっぱ……私は」

「今週の日曜は?」

「だから…あの」

伊澄の断り文句を無理やり遮って、ヒノケンは用事を聞き出そうとした。

「あいてるって事で。場所と時間は俺らが決めとくから。じゃね」

かなり一方的な約束を取り付け、キノの肩をひっぱり保健室を後にした。

「ちょ…どうしたの、ヒノケン」

「別に…」

案の定、廊下でキノに問いつめられた。

「別に……って!あれじゃ伊澄ちゃん迷惑だろ」

「来るって!伊澄ちゃんは!!」

「……なんで」

(んー……)

ヒノケンの辞書に、ごまかしの文字はなかった。

しかし、少し言いづらくて壁を見つめながら背中ごしにキノに話しかけた。

「誰にも言わない?」

「ウン」

キノはすぐ頷いた。

「なーんかネ……」

「なんか?」

「伊澄ちゃん、直人が好きみたいヨー」