「それ、うちの店だから、もし気が変わったら取りに来てくれ。ここから十分もかからないから」


里村葉はそう言って、あたしの手に名刺を握らせてきた。

でも今度はあたしも拒めなかった。だってこの名刺、ホントにきれいなんだもん。

それに、これまで拒否ったらさすがに悪いような気がするし。


しかもこの人、見知らぬ女子高生の落としたヘアピン一個のためにここまでしてくれたんだよ。

うう、ちょっと決心がぐらつくわ……。

だからかな、あたしは少しだけ譲歩してみる気になった。


「……気が、向いたらね」

「! ああ、待ってるから」


あたしの呟きに里村葉の顔がぱっと明るくなった。

ふっさふさのまつ毛が瞬いて、黒い瞳が微笑むように細くなる。