でも、何であの人がわざわざ声掛けて来てるの?

そんな疑問が顔に出たのか、彼は慌てたように左手をあたしの前に差し出した。


その上には花柄の小さな紙袋。


「これ、あの時のピン。会えたら返そうと思って」

「…………え」

「俺もこの道はよく通るから、学生さんなら会う確立も高いだろうし。持ち歩いてて正解だったな」


律儀というか何というか、普通はそこまでしないわよ。

あたしは唖然として思わず紙袋と男の人の顔を見比べた。


優しい人、なんだろうな。

普通ならヘアピンなんて捨ててしまって、そんなことがあったことも忘れちゃうわよ。

その気持ちはありがたいと思う。しかも美形だし。や、それは冗談にしても。


でも、あたしは――。