でもいい年してオッサンがあまりに必死だから、あたしはついつい腕から力を抜いてしまった。

そうして足を止めた途端、オッサンはコホンとわざとらしく咳ばらいをして、いかにも重々しい表情を作って口を開いた。


「お嬢さん、今あなたの上には百年に一度あるかないかの幸運が降りてきているのです」

「…………幸運、ですって?」


ちょっとイラっとした。

本当に幸運だって言うんなら、あたしは今こんなところでこんな思いをしなくてもすんだのに。

だけどそんなあたしの思いなんて気付きもしないで、オッサンはさらに力強く言葉を続けた。


「しかもそれは! いまだかつてないほどの! 恋・愛・運なのですよ!」


その瞬間、あたしは頭の中でプツンと何かが切れる音を聞いた。