「無理することはないよ、メイ」


列車が駅に止まって、ばらばらと人が降りていく。その柔らかいざわめきに、死神サマはそんな言葉をまぎれさせた。

いつもよりも、ほんの少しだけ温かい声だった。


「好きなら好きでいればいい。無理に諦めようとしたって、人の心は簡単に割り切れるものではないんだから」

「でも……苦しいよ」

「好きでいたって嫌いになったって苦しいんだ。それなら少しでも優しい気持ちでいられた方がいいだろう?」


……そうだよね。死神サマが言ってることは、きっと正しい。

まあ、難しいんだけどさ。苦しいと逃げたくなるし、自分だけが智彦に囚われてるみたいで悔しいし。


でも自分の心を誤魔化さなくていいのは、何となくほっとできるかな。

だってまだ忘れられない。今すぐにこの気持ちを消すことなんてできないから。


「ありがと、死神サマ」


――あたしの気持ちをわかってくれて。


そこまで言葉にしたわけじゃなかったけど、死神サマにはちゃんと伝わったみたい。

もう一度あたしの頭を優しく撫でてくれたから。