「過去形……?」


そんな言葉が思わずこぼれた。ものすごくささいなことなんだけど、あたしにしては珍しいくらいの閃きだった。

だってこの人が奥さんのことを話す時、二回が二回とも過去形だったんだもん。


そうしたら里村葉は一瞬だけ驚いたように目をみはって、だけどやっぱり少しだけ寂しそうな顔で笑った。


「そ、過去形」


答えはそれだけ。

だから里村葉にどんな事情があるのかはわからない。

ただ、奥さんは今、この人のそばにいないんだってことだけは確か。


でもきっと、これ以上はあたしが踏み込んで良いことじゃない。

それだけはわかったから、あたしは何でもないような声で「そっか」とうなずいた。


だって内心がどうかは知らないけど、この人は笑ってるんだもん。

だったらあたしが同情なんかしちゃいけない。