「自覚なしか、お前。まるで恋する乙女のような執着ぶりだったんだけど」

「別に恋はしてないけどなあ……何というか、出会いが出会いだったから気になってただけで」


う、耳が痛い。そりゃ妙な出会い方ではあったわよね。

街中で泣いてるわ、ヘアピン落として逃げてくわ、しかも再遭遇後はワガママ言って困らせるわ……うーん、普通嫌われるのはあたしの方なんだけど。


でもこの人、あたしに向かって言い返してきても、それを嫌がるような素振りなんてなかったわね。

むしろ面白がってた感じ? 人が良いというか、打たれ強いというか――。


「……Mな人?」

「誰がMか!」


思わずこぼれたつぶやきに、里村葉がかみついてくる。

別にあんたのことだとは言ってないじゃない。心の中では思ってたけど。

でもその必死な様子がおかしくて、あたしは知らずくすりと笑ってしまった。