「芽衣ちゃん、食べないの?」


隣から千夏さんがそう声を掛けてくる。

あたしははっとして大きく首を振ると、千夏さんに向かってとりあえず笑って見せた。


「い、いえ……いただきます」


確実に引きつった笑顔だっただろうけど。

こんな状況でよく知らない人たちとスイーツタイムを楽しめるほど、あたし神経太くないからね。


でもとりあえずシンプルなドーナツの方にかじりつくと、隣の千夏さんは紅茶を一口飲んでから、ふふ、と軽やかに笑った。


「でもね、まさかあなたが噂の芽衣ちゃんだとは思わなかったわー」

「……え、噂ですか」


思いがけない言葉に一瞬むせそうになった。噂って何?

ちらっと正面に座る男を見たら、気まずそうに目を逸らされた。原因はお前か。

しかも隣の湊さんは面白がるように人の悪い笑みを浮かべてる。