あたしは解放された腕をさすりながら大きく息をついた。

まだ心臓がバクバク揺れてる。呼吸も落ち着かなくて何だか息苦しい。


キスなんて何度もした。それ以上のことだって。

だからいまさら動揺することなんてないはずなのに。


「ふざけないで。あたしはもうあんたの彼女じゃないし、よりを戻す気もないわ」


ようやく絞り出した声も、みっともなく震えてた。

涙は出ない。だけど何だか切なくて、無性に悲しかった。


智彦は何もわかってないんだ。

この人の中で、あたしはまだ何でも言うことを聞く都合の良い女なんだ。