「この店さ、本当はうちの奥さんと考えたんだ」


あまくて、やさしい、声。


初めて聞くその響きにどきりとする。

同時に意外なことを聞いた気がして、あたしは里村葉を見上げたまま首を傾げた。


「……結婚してるんだ?」

「一応ね。五年前に」


あっさりとした返答に、ふーんと気のないフリで適当に相槌を打ちながら、あたしはいつの間にか知世たちに合流してる亜紀の背中を見つめた。


亜紀、これは失恋確定だよ。

ただの彼女なら望みもあるけど、奥さんじゃやっぱりキツいよね。うん。

後で亜紀に教えとかないと。うう、遠まわしに言うべきか直球に言うべきか迷うわ……。


もう、どれもこれもこの男がはっきりしないのが悪いのよ! 八つ当たりだけど!