「今田、やろ? 覚えてんで」


「うちの学校で今田で誰か思い出さない?」


 遠まわしな言い方やったけど、そう言われたらなんとなく。

 オレはカレーのルーのところにスプーンをさしてある男を思い出す。


「今田か」


「そう、今田夏日先輩」


「今田て何なん? 兄妹なん?」


「違う、いとこ」


「いとこ?」


 いとこ、で、特別。


「夏日先輩は一年のときからレギュラー張ってるうちのエースだった人。

 すごくいい人で、男子からも女子からも好かれてた。

 先輩にも後輩にもみんなに好かれる人。

 その人が二年になった年、リョウが入学してきた。

 それで、夏日先輩がリョウを入部させた」


「何で?」


 そこがなぞだ。


「今田夏日がええ選手やったことは知ってる。

 今も一年でレギュラー争ってるやろ、大学で。

 そんなんはええ。

 今田夏日がどれだけええ人間やったかはここで関係ないやろ。

 今田夏日がどんな人間でも、リョウが入部する理由にはなれへん」