「響くん」


「うん、カバンと、あとカツリョウから課題も預かってる」


「あがって、お茶でも、飲む、かな?」


 語尾に迷いを置くな。

 心でそうツッコンで、でもオレはうなずく。

 もし門前払いされそうになっても、話すつもりではいたんやから。


「お邪魔じゃないんなら」


「今日はもう誰もいないから」


「誰も?」


「通いのお手伝いさん、熱が下がったからって帰ってもらったの」


「お手伝いさん、ねぇ」


 オレはそうつぶやきながら門に手をかける。

 鉄の重い門。

 でも手入れが行き届いている感じはする。


「中まで運ぶわ」


 なんとなく手持ち無沙汰になっていたリョウにオレは言う。

 するとリョウは小さくうなずいて背中を向ける。


 
 長いエントランスを歩いて扉までたどりついて。

 たたきは想像以上に広くって。

 っていうか、玄関ホールもあほかっちゅうほど広くて。

 正直うちの一部屋分やろ、とツッコむほど。

 けど、それは顔に出さんようにして、床にならんだスリッパに足をかける。


 
「リビングでいい、かな」


 なんでいつも疑問系やねん。

 オレはうなずきながらため息をつく。

 これはどうなんやろ。

 オレがあいてやからこんなか?

 それとも。

 普段からこうなんかな。