何もできない自分が、もどかしい。


好きだけじゃ足りない。


好きだけじゃ…気持ちだけじゃ。



守れなきゃいけないんだ。




……付き合ってる訳じゃねえけど。



そばにいたい。守りたい。そう思った。



クラス中が、担任と龍雅の漫才で盛り上がる中、ここだけが別の空間のようで、無意識に鼓動が高鳴るのを感じる。


俺をその瞳に写してくれている事が、こんなにも嬉しいと思ってしまう。


そんな単純な自分の考えに、むず痒くなってくる。



好きだと意識した瞬間から、こんなにも周りの景色が変わるなんて知らなかった。


こんなにも、自分が自分じゃなくなるなんて、思ってもみなかった。



触れたい。感じたい。ももの全てを……。



その時、タイミングを見計らったかのようにしてチャイムが鳴る。


これで、今日の授業は全て終わり。


そんなタイミングで、俺の意識もハッと現実へと引き戻される。



「おーし、今日はこれで終わりだ。連絡事項はないから、明日も遅刻しないように。じゃ、気を付けて帰れよ〜」



担任の言葉を最後に、ガタガタとクラスメート達が席を立つ。


まだ雑談をしている奴も居れば、そそくさと教室を後にする奴。


そんな中、向けられる視線。


チラリと視線の先を見るだけで、俺は気のないフリをして帰り支度を始める。



派手な化粧。汚い肌。

着崩して胸元を大きく開けた制服。

きちんと手入れなんてされてないのか、脱色しすぎて痛みすぎた長い髪。

スラリとそこそこの身長に、いやらしい色目。



ももとは何もかもが正反対に思えるような、そんな女だった。