「…君はどこが良かったのかな?」


ポツリと独り言を言った赤坂の声は、俺の耳には届いておらず黙々と英語の単語を辞書で調べていた。


「ん? 何か言った?」


「…別に、ただそこの文章はtoから調べた方がいいかもねって言っただけ」


「えっ!? どこどこッ!?」


赤坂の言葉に俺は、そこら中に散らばる文章の中のtoを探し出しては辞書で調べまくった。


けど、赤坂は俺に言った事を忘れているみたいに再び自分の勉強を開始した。…出来るヤツってこんなにも嫌味ったらしいのか? ここまで言わなくてもいいだろう? って事もズバズバ言ってくる。神経図太い俺でもさすがに心が折れちゃうよ?


「なぁ、赤坂って、好きでも嫌いでもない勉強をどうしてそんなに必死にするんだ?」


「…それが何か君に問題でもあるの?」


「…………別に、問題なんてありません」


一応、形ばかりのお付き合いが始まって、しばらくして気付いた。赤坂は絶対に俺の名前を言わない。言う時はたいてい『君』って、呼び掛ける。…まさか、人の名前を覚えてないって訳じゃないよな!? 名前だって最初に名乗ったよなッ!? 思わず、自問自答したくなる。


だってさ、今まで女の子と付き合うのって映画見たり、嫌々だけどショッピングに付き合ったり、同じクラスならどっちかが担当してる教科のノートを職員室に運ぶのを手伝ったり…って、それって今まで付き合った女じゃん!!