「つまり、さっきのカードが機密データってことか?」

「重要な書類なんかは、マシンの中に直接入れたままにしたり、ネットでデータを遣り取りしたりするよりは、媒体通してやったほうが、安全性は高いらしいからな」

マシンに入れたままにしておくと、それごと盗まれ、ネットだとハッキングの危険性があるらしい。トヲルもそのようなことを、何処かで聞いたことがあった。

「でも、なんだってあの中に入ってたんだ?
確かアレ、セキュリティが少し強化されてただけの、ごく一般的な普通の家にあったんだぜ。しかもあの置物は、他の似たような物と一緒に、棚に飾ってあった代物で、特別厳重に保管されてたわけでもなかったし」

「そりゃ、『木の葉を隠すなら森の中』ってよく言うだろ。たぶんそれと同じ発想なんじゃねぇのか?大体あんなモンを盗む奴がいるなんて、誰にも予想できねぇしな」

ここでコウヅキは、意味ありげな目線をフィートに送った。フィートはそれに気づき、かなり脹れた。

「何でそれが、俺だと?」

「ゴードンの情報網を甘く見るなよ。お前を割り出すくらい雑作もないぜ。
ただ、今現在何処に居るかまでは、掴めなかったようだがな。
いつも高価な物を盗むわけじゃねぇから、殆どの被害者は被害届を出してこないし」

(確かに…)

盗まれたのがあまり高価な物ではなかったら、トヲルでも被害届を出すのは、少し躊躇うだろう。

「お前が俺から逃げ回っている上に、女の家を転々としてヒモ生活を送ってるから、居住が定まらなくて、俺も探し当てるのに苦労したぜ。仲間に頼んで、やっとここを見つけたんだからな」

「それじゃ、盗んだ俺を捕まえるのか?」

「まさか。さっきも言ったように、俺はデータを持って行くだけさ。それにあの会社はお前みたいなコソ泥、相手にしてねぇし。あっちもデータさえ取り戻せれば、それでいいみたいだからな」

「もっとも…」

と続けて言ったコウヅキの目が、一瞬光ったような気がした。

「お前が、あのデータを目当てにして盗んだ、ってんなら、話は別だけどな」