確かにコウヅキの言う通りなのだ。

一介の学生でしかない自分には、どうすることもできない。

先程までの決意が、一気に崩れていくのを感じた。

トヲルは唇を噛み締めながら、俯いた。

ここで、ふと疑問が湧く。

「でもコウヅキはなんで、そんなことを詳しく知っているの?」

「そりゃ」

足を組み直し、コウヅキは再び天を見詰めた。

「俺も昔1年くらい、ここに買われて生活してたことがあったからな」

思いも寄らないこの言葉は、トヲルを驚かせた。顔を上げ、コウヅキを凝視する。

「それってつまり…もしかして、コウヅキも?」

「まぁな。フィートもここで、一緒に生活していたんだ。もっともあのマダム、1年ごとに子供を入れ替えているみたいだから、すぐにまた戻されちまったけどな」

「えっ?じゃあなんで二人とも、今でも交流が?」

先程の女性の口振りだと、今のコウヅキを知っているような様子だった。

「別に交流があるわけじゃないが、まあ、以前少し…な。それにマダムは、その頃の俺のことなんか、憶えちゃいねぇけどさ。勿論フィートのこともな。
しかも俺の場合は偶然、仕事絡みでやむを得なく、あの人に近付いただけだったし。
…フィートの場合は多分、言葉巧みに近付いて、ヒモにでもなってるんだろう。で、ここにちゃっかり住み着いているわけさ」

「ヒモじゃねぇよ。俺だってちゃんと、働いてるんだからな」

声のした方を見ると、部屋の入口でフィートが、大きなバッグを1つ抱えて立っていた。