移動教室の帰り道のこと。廊下ですれ違った、幼なじみの親友二人に、何故かとっ捕まえられた。一体何だと思っていると、声を潜めて二人が話し始める。



「ちょっと谷口、どういうことなの?」

「は……?」

「りっこちゃん、脈絡なさすぎですよ。美隼さんが困ってます。」



 胸を覆うくらいまである黒髪を二つ結びにしたれみちゃんが、小さく息をついて言う。りっこは「……ごめん」と口にして、陽に透けるライトブラウンの短い髪を、ガシガシとかき上げるのだった。



「真奈瀬がさ、最近渋沢とよく一緒に居るんだけど。あんた、良いの?」

「……良くねーけど。」

「だったら止めろよ!もう付き合ってんじゃないかって話まで出回ってて、ウチら超イライラしてんだけど!!」

「りっこちゃん、落ち着いて……」

「落ち着けるか!真奈瀬は真奈瀬で、断り切れないからって毎回付き合ってやってるし……まぁ、悪い奴ではないんだけど、渋沢と真奈瀬ってのは何か違和感あるんだよね。」

「そうですね。やっぱり、真奈瀬ちゃんの隣には美隼さんですよね。でも、私個人としては、陸上部のエース・渋沢君と、可愛らしく着飾った男の娘・美隼さんのカップリングが結構萌え……」

「れみちゃん、ナチュラルにそっちの話に持っていこうとするのはやめてもらえるかな。」

「あ、すみません。ですけど、社会の神崎先生と体育の木下先生のカプもなかなか……」

「れみ、もう良いから。」



 うふふ、わざとです、なんて笑うれみちゃんは、なかなか良い性格をしていると思う。二人に“このままだと本当にあの二人が付き合うことになるぞ”、なんて軽く脅されて彼女達と別れ、教室に戻った。