夏の大会では、悲願の優勝を果たした。みんなで号泣して喜んだけど、色んな新聞や雑誌のインタビューに答えることもあって、結構忙しかったと思う。担任教師は、“スポーツ推薦は確実だ。このまま成績を少しでも伸ばすように頑張りなさい”ということだった。

 梅雨の頃から数えると、本当に久し振りの雨だ。折角のお出かけに雨降りなのは少し残念な気もしたけど、楽しいという気持ちの方が勝(まさ)っている。今日は、和屋君に料理を教えてもらう日だった。

 香子と買い物に行ったあの日から、母親とも少しずつ、お洒落について話すようになった。親としては、娘がファッションに興味を持ったのが凄く嬉しいらしい。突然“可愛かったから全部買っちゃった”と、数万円はする洋服が色々入った袋を渡された時は、かなりびっくりした。

 今日は、そんな母からプレゼントされた洋服を取り入れたコーディネート。ワンピースタイプのオフホワイトのチュニックに、元々持っていた黒のスキニーパンツと、膝下くらいまでのブーツを合わせてある。



「――佐桜花さん、いらっしゃい!どうぞ、上がって下さい。」



 和屋君の家は、清潔感のある一軒家だった。ご両親と弟は出かけているそうなので、文字通りの二人きり。柄にもなく、緊張してきてしまう。



「……あ、これって家族の写真?」



 気を紛らわせるために、リビングのテーブルにあった写真立てを話題にしてみる。嬉しそうに頷いた和屋君は、「はい!仲良しで、自慢の家族です」と笑う。弟の名前は、洋泉(ひろみ)君というそうだ。

 もうすぐ4歳になる洋泉君のお世話は、大変だけど楽しいそうだ。兄弟が居ないからよく分からないけど、自分の知らない感情を知っている人達が居るのは、何だか羨ましいなぁ。あたしには、一生経験できないことだからね。



「えーっと、今日は豚のしょうが焼きと、かぼちゃのムースを作ります。材料は準備してあるから、ゆっくり一緒にやりましょう。」

「よ、よろしくお願いします!」

「ははっ、体育会系って感じの良いお返事ですね。カロリーも低めに作れるんで、早速始めましょうか。」



 テーブルの上に材料を並べるというので、とりあえず待機する。かぼちゃに豚ロース肉にしょうが、トマトにレタスにキャベツ、彩りを添える紫色の玉ねぎ。塩コショウなどの調味料の位置も確認して、いよいよ調理開始。食べる時のことを考えて、ムースから先に作ることになった。