和田から返ってきた『竜馬がゆく』の最終巻を眺めていると、隣から「あのさ」という声。見ると、何やら不安げな顔をしている在だった。



「……何だよ。」

「もしかして、和田さんのこと好きになった……とか?」

「は?まぁ、他の女子とは違って面白いかもしれないとは思うけど。」

「……何だ、そっか。」



 ホッとしたような表情の奴を見て、何がそんなに心配なんだろうと考える。まさか、オレと和田が付き合い始めたら自分が放っておかれるから、っていうんじゃないだろうな。



「……俺、何となくあの子が苦手なんだよね。だから、名前で呼べないっていうか……」

「お前と違って頭が切れるからだろ。」

「それもあると思うけど……」



 馬鹿が要らない心配をしなくて良いんだと告げると、ムッとする在。しかしすぐに笑顔になり、「教室戻ろうぜ!」と口にする。奴に続いて、オレも教室に入った。

 ――今は、良い大学に入って良い企業に就職することしか考えてない。英語担当の教師がやってきて、教科書を開くように指示を出す声がする。窓の外では青々とした葉桜が、夏の訪れを予感させていた。