「……何で居るんだよ。今は授業中の筈だけど。」

「何でって、健ちゃんに会いたかったからに決まってるじゃん!体育の授業なんて見逃せないし!」

「オレは会いたくない。早く帰れよ。周りが呆れてるのが分からないのか?」



 大袈裟に溜め息をこぼしながら言うと、セーラー服に規定外の真っ赤なリボンを付けた井上も、ようやく冷めたようなみんなの視線に気付いたらしい。だが、その原因には全く心当たりがないといった様子で、首を傾げながらもこちらに笑顔を向けた。



「じゃあ健ちゃん、また来るね!在君もバイバーイ!」

「うん、じゃあね!」



 ――おい、全然分かってないじゃないかよ。“来るな”って言ったのに。ちゃっかり再会を望むような返答をした在に対しても、何だか腹立たしい。まぁ、こいつはオレと違って親しみやすい性格で友達も多いから、仕方のないことなのかもしれないが。

 耐えきれずに嘆息すると、クラスメイトからは哀れみを含んだ視線。同情するんなら、あの女をオレから遠ざけてくれよと言いたい。

 そうしている内に授業終了のチャイムが鳴り、オレ達は更衣室へと急ぐ。あいつに会ったほんの一瞬のせいで、この授業がとてつもなく長く感じた。午前中の残り三つの授業は教室で受けるので、流石に侵入してくるようなことはないだろう。だが、油断は禁物だ。あの性格なら、狭い掃除用具入れの中に入ることすら平気そうだから。



「……安海、大丈夫か?何か顔色悪いけど。」

「ほんとだ。保健室行った方がいーんじゃね?勉強のしすぎかもよ。」



 入れ違いにやってきた他のクラスの生徒達に心配され、曖昧な笑顔と「平気だ」という言葉を向けておく。在が「こいつ、寝る時間も削って勉強してるらしいから注意しとくね!」と答えてオレを引っ張ったので、とりあえずそれについていくことにした。次の授業まで、あまり時間がないし。