「……そっか!でも、めげないもんね!!じゃあバイバイ!!」



 またね、と言いながら友人の手を引いて離れていく井上。こちらとしては、二度と会いたくないのだが。呆気に取られる俺と大多数のクラスメイト達。ただ一人だけ冷静……いや、ズレているだけか。とにかく、言葉を発することができたのは在だけだった。



「……あの子、スゲー……」



 オレを除いて、誰もが頷いていた。オレは内心ではみんなと同じように思いながらも、首を縦に振ることができなかった。これから始まる騒がしい毎日を予想して、激しい頭痛と戦っていたからだ。

 あんなうるさい奴にウロチョロされては、オレの学園生活はめちゃくちゃになってしまう。クラスメイトからは同情めいたものと良い気味だと言いたそうなもの、二種類の視線を受ける。目の前に座る在は、どちらとも取れる、やや後者寄りのニヤついた視線を送っていた。



「これに懲りて、少しは女の子にも目向けてみたら?」

「断る。面倒が増えるだけだ。」



 ベランダ側の窓の外では葉桜が揺れている。初夏へと急ぐ街並みを見下ろしながら、明日からの学校生活を思う。自分の大きな溜め息が、やけに耳に残った。