「安海君っていうんだ？下の名前は？」

「キミに名乗らなきゃならない理由でも？」

「えー、何か冷たくない？ひどいなぁ……」



　苦笑を浮かべた女は、肩に付くか付かないかの長さの所々跳ねた元気の良い金髪を、指に絡めて弄くっている。ここで幻滅してくれるだろうという希望を込めて放った言葉だったのに、親友の余計な一言で、オレの努力は虚しく崩壊する。



「こいつの下の名前は健だよ！健康の健ね。」

「へぇー！健ちゃんかぁ!!君は？」

「俺は山本在！存在の“在”って書くんだよ。」



　勝手に人を健ちゃん呼ばわりした女と楽しげに会話する親友を見て、深い溜め息が洩れた。在が余計なことを言ったばっかりに、この女のオレに対する呼び名は確定したも同然だ。



「そっか、健ちゃんウチのこと知らないんだよね？井上琥珀だよ！こないだ転校してきて、一応早朝集会で紹介してもらったんだけど。」

「誰が健ちゃんだ。オレはその時ウトウトしてたから、知らないな。」



　在にチラリと目をやって、“お前のせいだ”と訴える。首を傾げたところを見ると、どうやら伝わらなかったようだ。再び嘆息したオレに、女はまたもや話しかけてきた。