カフェ“コルトナ”で、オレは一人の女と向き合っていた。この女は、オレと同じ大学じゃないはずだが……一度振ったはずなのに、どうしてしつこく話しかけてくるんだ。しかも、人の彼女の働いている所に呼び付けるなんて、どういう神経をしているのか分からない。そんなことを思いながら、目の前の女・和田小花を見つめていた。

 本当は、会わないつもりだった。でも、琥珀が“女の子に恥をかかせるのはダメだ”なんて言うので、渋々足を向けてやった。酷い目に遭わされたヤツにもそんな気遣いをしてやるなんて、彼女のお人好しも大概だなと思ったが、それが良い所でもあるから黙っておいた。



「安曇君……私、本当にあなたのことが好きで……今日だって、早く会いたくて、ずっと外で待ってたのよ。」



 言いながら、ぎゅっと手を握られる。その瞬間、オレの心臓が勢いよく跳ね上がった。



「さむっ!君、一体どのくらい待ってたわけ!?」

「だって、本当に、すぐに会いたくて……」



 彼女の手は、真冬の空の下で待っていたように冷たかった。春とはいえ、夜はまだまだ冷えるのに……そういう一途さがあるなら、すぐに他の男が捕まるだろうにと思っていた、その時だった。



「健ちゃん、はい。コーヒーのおかわり。あと、和田さんの紅茶ね。あっ、そういえば和田さん。空調いじんなくて平気かな?」

「えっ、どうして?」

「だって、和田さん暑がりなのかなって思って。さっきウチに、氷水頼んできたじゃん。今日、結構寒いのに……言ってくれたら、温度下げるからね。」

「あ、ありが、とう……」

「……へぇ、そういうことか。琥珀、ありがとう。オレが馬鹿な男だったら、完全に騙されてたよ。」



 訳が分からないという顔をする琥珀に、冷や汗をかいて、しどろもどろな発言をする和田。オレが来る前に水を下げさせて、ホットティーを注文したところも、何ともあざとい。



「春先に、氷水に手を突っ込む根性だけは認めてやるよ。ただ、やり方が汚いな。オレは、そういう女は大嫌いだ。悪いけど、他を当たってくれ。」