「ほんとお腹空いたー!ねぇ、どこ行こっか?」

「ねぇ、佐桜花さん。良かったら、俺の家で食べませんか?」

「えっ、良いの?久し振りに行きたいな!」

「明日、授業ないんですよね?もし良かったら、その……」

「ん?」

「……泊まっていかないかな、って思って……」



 ――あたしは恋愛経験が少ないけど、これだけは分かる。これは、その、つまり……脳内は大パニックだったけど、「え、うん。じゃあ、泊まらせてもらおうかな……」と、必死に冷静さを装った。とりあえず、竜泉君の頬が赤いから、間違いない。



「……良かった。断られたら、どうしようかと思った。」

「そんな!断るわけないよ!」

「そんなに力一杯言わなくても……佐桜花さんって、本当に面白いですよね。見てて全然飽きないです。」



 クスクスと笑う彼の髪に、ひらりと何かが落ちてくる。真っ黒な髪の毛に、小さな薄紅色が乗る。彼に声をかけてから取ってあげると、「ありがとう」とお礼を言われた。

 ――自分の名前の由来にもなっているその花を、来年も一緒に見られますように。そんなことを思いながら、あたしは右手に、彼の体温を感じ取る。

 夜桜が続く道は、どこまでも美しくて。これからのあたし達を、そっと優しく見守ってくれているかのようだった。



Side Saoka
Happy Ending!