――バイトが終わる頃を見計らって、店の外で琥珀を待っていたオレ。少しすると、派手な金髪の女が、「お疲れ様でしたー!」という元気な挨拶と共に、店から出てきた。彼女はオレを見るなり、仰天したような顔をする。オレとしては、彼女が薄化粧になっていたことに、とても驚いたのだけど。

 何だ、こっちの方が断然良いじゃないかという感想はさておき、琥珀に言葉をかけようとする。だが、口を開いたのは、意外にも彼女の方だった。



「……健ちゃん……」

「……ごめん。どうしても話がしたくて、バイトが終わるのを待ってたんだ。今、大丈夫か?」

「……うん。ウチも、いつかはちゃんとお話しないといけないだろうなって思ってたから。」



 まどろっこしいのは嫌いだから、単刀直入に聞いた。オレを避けているのは何故か。何か嫌われるようなことをしてしまったのなら謝るから、理由を聞かせてくれないか。その問いに対する琥珀の答えは、こうだった。

 あの日、彼女をかばって、オレは多少なりとも怪我を負った。それに責任を感じて、どうしていいのかも分からなくなって、なるべく会わないようにしたのだという。バイトに打ち込むことにしたのは、オレのことを考えないようにするためと、もう一つ明確な理由があったのだそうだ。



「ウチ、卒業したら、ここで雇ってもらうことになってるんだ。店長が、よく働いてくれるし、社員にしてもいいって言ってくれてね。でも、そのためには、きちんと高校を出なさいって言われてて……一人で図書館に行って勉強したり、翠ちゃんの学校の教科書借りてみたりしてたんだ。だから、健ちゃんを嫌いになったわけじゃないよ。ウチはずっと、健ちゃんのことが大好きだもん!」

「……そうか、それは良かった。琥珀が居ないせいで毎日退屈だったから、本当にどうしようかと思ったよ。」

「あれ?いつもみたいに『鬱陶しい』とか言わないの?」

「……前はそうだったけど、今はそうじゃないからな。だから、お前が最初にオレに言ったこと、OKしてもいいよ。」

「……え、何だっけ?」



 ――この女、本気で忘れてるのか。まぁでも、あんなに鬱陶しいと思ってたヤツを好きになったなんて、何だか悔しいから。彼女のしつこさにオレが折れたって、そういうことにしておこうと思った。