「比奈子がさ、何で最近美隼君を見てもかっこいいと思わないのか、教えてあげようか?」

「顔が暗いから、とか?この前マネージャーに言われたけど……」

「それもあるんだけどさ。比奈子ね、多分、石川さんと一緒に居る美隼君が好きだったんだ。石川さんに笑いかけたり、優しくしたりしてる所を見て、いいなぁって思ったんだと思うよ。」



 ――思わず、言葉を失う。好きな人や物に触れている時、人はきっと、一番良い表情になるんだ。仕事をしている時とは違う顔を見て、好きになってもらえることもあるのか。そう思ったら、言いようのない気持ちが、胸をいっぱいに満たしていく。



「……比奈子ちゃんって、本当に俺のファンだったんだね。」

「だから、最初からそう言ってるじゃん。比奈子、美隼君のこと大好きなんだからね。応援してあげてるんだから、恋も仕事も頑張ってもらわなきゃ困るの!」



 笑顔で言った比奈子ちゃんは、最後に俺の背中を思いっきり叩いて、爽やかに去っていった。

 痛みの後で、道が開けたような感覚。相手を思って引く愛情も、確かにあるのかもしれない。お似合いの相手は、自分じゃないのかもしれない。だけど、あの子をずっと笑わせてあげたい、守ってあげたいと思うこの気持ちだけは、誰にも負けない。絶対に、負けたくなかった。



「よし……行ってくるか。」



 明日、俺はこの恋に決着を付ける。