「……そんなの当たり前じゃん!野球、またやろうよ。あたし、大学生になっても社会人になっても、ずっとソフトも野球も好きでいるからさ。」



 口にした瞬間、高須賀の顔がぱぁっと明るくなった。この顔が好きで、あたしは一緒に野球をやっていたのかもしれない。そんな風に思った。

 あいつによろしくな。高須賀はそう言って、一足先に教室を出て行く。少し経ってから、あたしも席を立った。空を染めているオレンジには、うっすらと夜の色が混ざり始めていた。



「――竜泉君、お待たせ。」



 振り向いた黒髪が、さらりと風に揺れる。にっこりと微笑んだ彼は、「帰りましょうか」と言って、あたしの右手をそっと掴んだ。



「さっき、高須賀先輩に会いましたよ。」

「えっ、あいつ何か言ってた!?」

「『山沖をよろしく』って。もちろんですって返しておきました。」



 まっすぐな言葉と柔らかい笑顔に、顔が熱くなる。そっけない返事しかできなかったけど、多分竜泉君は分かってくれている。その証拠に、小さく笑い声が聞こえてきた。



「……大丈夫ですよ。佐桜花さんは、これからもずっとそんな感じでいてくれて大丈夫です。」

「え?」

「多分、友達と恋人の境界線があんまりない人なんだろうなって思ってたから。特別扱いするの苦手そうだし。」

「うっ、何故それを……」

「部活とか試合で見てきたから分かりますよ。お気に入りの部員を贔屓することもないし、みんなに平等な人なんだなって思ってました。」



 他人に優劣を付けるのは苦手だ。何故って、あたしがそうされたくないから。何よりあたしは、誰かを批評できるような大きな人間じゃない。まだまだこれからだ。ソフトで有名になって、試合解説ができるようになったら、話は別かもしれないけど。そう口にしたら、竜泉君はクスリと笑った。