今の俺の格好は、校長に渡された自分と同じ茶色い髪のカツラ(ウェーブロング)を被り、仕事ですら着たことがない青春の代名詞・セーラー服。こんな姿を幼馴染みや友達に見せてしまったのは悔やまれるけど、ファッション雑誌で、とっくに女装を見られてるからね。まぁ、慣れたといえば慣れたのかも。

 俺の職業はモデル。でも、ただのモデルじゃない。普通の男性ファッションも女装もこなす、“オールマイティーなモデル”だ。さっき飛びかかってきた比奈子ちゃんは女装姿の俺を見ても引かないらしく、ああいう風に度を越した愛情表現をしてくるからとても迷惑している。比奈子ちゃんは、俺と同じ色にしたという明るい茶色の長い髪を揺らしながら、相変わらず、ジワジワと距離を詰めてきた。



「ねぇ、離れてくれない?」

「そうだよ!いつまでも美隼に抱きつかないで!!」

「あれ?石川さんヤキモチィ?比奈子みたいに美隼君に抱きつけないから悔しいんだ?」



 勝ち誇ったように艶笑する比奈子ちゃんに、いつの間にか集まっていた男子達が頬を染める。「なぁ、お前は美隼とどっちがタイプ!?」という声が聞こえて、“俺は女じゃねぇ”と殴りたくなったけど、我慢。

 ――瞬間、真奈瀬が「……美隼は嫌がってるもん」と呟いて。俺が何か声をかける前に、あっという間に居なくなってしまった。